とんかつ一（はじめ）
この店を訪れるのは何年ぶりだろう・・・？
前回来たのはたぶん10年以上前になるか・・・・。
今回が3回目になるが、初めてこの店のことを知ったのはまだ20代のころだった。
当時勤めていた会社に話し好きの人がいて、その人に聞いた。確か次のようなことを言っていた。
「とにかくカツがでかい。皿からはみ出るほどのとんかつを見て客はみな目を丸くする」
「カレーライスというメニューがあるのにご飯にカレーをかけて出してくる」
「ハンバーグとかを注文すると店のおやじが『うちはとんかつ屋だからとんかつ注文してくれよー』とかおもしろいことを言う」
「付け合せのキャベツや味噌汁はおろか、スパゲッティまでなくなるそばからこちらの有無を言わさず付け足してくるから食事がなかなか終わらない」
「カウンターから遠いテーブル席の客には味噌汁の鍋ごと預けて『自分でよそってねー』とかむちゃくちゃなことを言う」
「店のおやじは客のことを親しみを込めてみな『だんな』と呼んでくる」
あとこれは失礼だと思うけど「とんかつみたいな顔したおやじがとんかつを揚げている」
と、こんな感じだった。
そして訪れてみると、全くその話しの通りで笑えたのだった。
当時は20代だったため、その『だんな』と呼ばれることに違和感があったのを覚えている。
それとライダーの客が多かったのも印象に残っている。
2回目は30代のときに。このときの印象は食後苦しくて暫く動けなかったことしかない。
この頃にはもう何度もメディアに登場してすっかり有名店になっていた。ライダーの口コミ効果もでかかったんだと思う。
そしてオレが20代の時に訪れたときにはなかったと思われる「初めての客はミックスフライ、2回目以降は好きなメニューを注文できる」とかいうルールが定着していた。
つい先日も「珍百景」かなんかのテレビに出ていたばかりである。
それを見て思った。この店、基本、20年以上もなんも変わってないのだ。
変わったのはその値段だね。
オレが20代のころ、ミックスフライは確か千円しなかったはずだが今では1350円になっている。これも時代の流れだね。
40代になって再びあいまみえることになるとは・・・・。しかもライダーとして。
さあて・・・前置きはさておき（ってすでに二日も前置きがある）いよいよ対決だ！
意を決して中に入ると・・・。
案の定「初めてですか・・・？」と聞かれた。
「3回目です」と答えると
「なら好きなの注文してください」となんかがっかりしたように見えた。
だがそう言った舌の根も乾かぬうちに
「だんな、いまこのお客さんが注文したのと同じでいい？一緒に作っちゃうんで」
『だんな』・・・・今回はそう呼ばれても違和感がない。
それはそうとオレの前のお客さんが何をオーダーしたのかまったく状況がつかめないまま「え？い、いーですけど」とノリで答えてしまった。
話しをまとめると、次のようなことだった。
「鶏肉を間違えて多く発注してしまったため早くさばきたい。特別な味付けにするのでまとめて作ってしまいたいからオレの前に入ったお客さんが注文したのと同じのにしてもらいたい」
そんな感じだった。
まあそうは言っても鶏肉だけじゃなくて他にもなんか付けてくれるんだろ、と思ってた。
なんたってこっちゃ約10年ぶりにカツ食いにきて戦闘意欲満々なのだから。
目の前で料理をする姿を見物していると、電話での注文があったり11時台から予想外にお客が多かったりしてあせったのか、おっちゃんは包丁で指を切ったりして、そりゃもうドタバタだった。
おっちゃんの会話もこんな感じだ。
「この鶏肉145円だっていうから『なんでそんなに高いの？』って聞いたら『じゃあ98円でいーよ』だって、でたらめだよ」
って、それを客の前で話すのもどーなんだ？しかもグラム98円の鶏肉を1150円で出すってか。
まあでもきっと嘘のつけない人なんだろうーね。人柄が出ているよ。
で、ふと目の前をみると・・・・あるある。
必殺のカレー。
ジャブのようにのちのち効いてくる付けあわせのスパゲティー。
味噌汁はコップで水を出すかのごとく着座した瞬間から配られている。これにうかつに手を出すと盛られてしまうので料理が出てくるまで放っておくのがベターだ。
出た。基本どんぶりめし＋カレーである。
後からいらしたご年配のグループは「あー、そんなにご飯いらない。その半分でいい。カレーもいらない」と制止していた。
で、オレの料理の正体が判明・・・。これだ。
鶏の甘酢あんかけ。
とんかつはじめでこんな料理に出くわすなんてレアなケースじゃね。ラッキー、とか思ったら
「鶏のあんかけ」というメニューがあるやんかーい。
けどオレとしては10数年ぶりにカツを食いに来て中華風の料理を食わされるなんて不本意だから
「おじさん、ブタも食いたい」
と思わず言ってしまい、いけねっと思ってすぐさま「小さいのでいーから」と付け足すことを忘れなかった。
「だよな。10年ぶりにカツ食いにきたんだからブタも食いたいよなー。じゃあ300円でいーから・・・ほらよ」
と出てきたのが
あのぅ・・・・
フルに一人前ですか・・・・。
てっきり一口サイズのが小皿で出てくるのかと思ってましたけど・・・甘かった・・・。
て、手ごわい・・・。
すでにチキンをここまでたいらげていて「やべー」とか思ってたところにこれだ・・・。
だがそこは大食いのいみなしほういちだ。
「味噌汁の御代わりは？」「ご飯足りてる？」「キャベツは？」という再三再四にわたるおかみさんの攻撃を「だいじょぶです」とかわしながら、しょっぱいたくあんは残させていただくものの、なんとか二皿たいらげたのである。
勝ったあ！
・・・・・なにに？
「ごめんね。まずいの食べさせて高くなっちゃって・・・1450円です」
おっちゃんはそう言うけど、二人前食べてるんでたぶん安い・・・けど鶏肉の仕入れ値を知っちゃうと・・・
非常に微妙なラインなのだった。
でもカレーはともかくチキンもポークもとってもおいしかったし、何よりもこのエンターテイメント性はほかではなかなか味わえぬ楽しさを得させてくれる。
それがこの店のよさなのだ。
きっと腹をすかせたライダーやサーファーたちにすっごく感謝されながらここまでやってきたんだろうと思う。
とんかつはじめよ、永遠なれ。
後から来た初めての若者グループも前情報バッチリなのだろう。「じゃ全員ミックスフライでいーかな」にも「はいはい」とどよめくこともなく「味噌汁勝手にやってねー」の鍋ごと攻撃にも「あ、はい」とまるで動じる様子もなかった。
実におもしろい。
もう少しその場にいて見学したかったが次もあるのでおいとますることにした。
・・・・・・。
く、苦しい・・・・。
すぐバイクに乗れない・・・・。胃腸薬を持ってくるはずが・・・忘れた・・・。
20分ほど店の脇で〇円マップを片手にしゃがみこむ不審者風いみなしなのであった。
↑「もう20代じゃないんだから節制しろや」「よくたいらげたなー」「もっとおもしろい攻撃はないのか？」などなど、いろいろと思われたかたは、是非押してくだされ～(ノ^∇^)ノ
