福島には愛がある
結局、道を間違えたせいで8キロぐらい余分に走ったのが致命傷になったのだ。
悔いても悔やみきれないが、重たい心を抱えて、重たい車両を引きずりながら重たい足取りでまた進み始める。
ここで何があってもやってはならないのが車両を自分の体の反対側に傾けることである。
ちょっとでも油断してみろ、そこにはさらなる地獄が待っているのだ。
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だが、車両のバランスを取りながら、足早に進むのは腰痛持ちには相当な負担である。
連続で移動できる時間がせいぜいもって5分ぐらいだろうか。
それでも500メートルぐらい進んだか。
それまで平坦だった道だが、遠く先に目をやると、若干の上り坂になっているのがわかる。
ぜ、絶望・・・。
それで、歩道上に少し窪みがあるところ(写真の黄色で囲った部分)があったので、思わず休憩することに。
単身さんからメールの返信が来ていた。
確認すると、
「まだ家ー。ちょと遅れるかも。のんびりどうぞ」
だ、そうだ。
一応、この前のメールのタイトルを「ガス欠」とし、内容は「さらに遅れるかも」と書いたのだが、おそらく、こちらの大変な状況を把握できていないようだ。
そりゃそーだ。
まさか、ガス欠だなんて間抜けたことを、一度ならず二度までもやらかすだなんて、あり得ない話だもの。
イメージできんわ。
たとえピンチをわかってもらったとしても、単身さんが応援に駆けつけてくれるまでに1時間以上かかるだろう。
ああ・・・。
あの上り坂、超えられるのかしら・・・?
と、その時だった。
おもむろに白いプリウスが、減速し、すうっと維水志のいる歩道へ寄ってきた。
そして、
「なに?ガス欠か何かか?」
と、ドライバーさんが言っている。
助けてもらえるとは思えないが、一応、こちらから歩み寄って、
「そ、そーなんです・・・」
と、答えると、
「いや、さっきここを通ったら重たそうに歩いているのが見えたからさ。今、この携行缶が空だから、ちょっとそこまで行ってガソリン入れてくるわ」
と、赤い、おそらくはガソリンを入れる容器であろう、それをこちらに見せながら福島弁でそうおっしゃっている。
へ?
え?
ええええええっ(; ・`д・´)
そそそそ・・・・、
そんなことってある?
維水志:「えぇ、よ、よろしいんですか?」
と確認するのだが、
ドライバー:「なに、何リットルぐらい入るのさ?」
と聞いてくださる。
維:「ガソリンスタンドまでたどり着ければいいので2,3リッターもあればいーんです・・・」
ド:「じゃあちょっくら行ってくるんで待ってて・・・」
維:「お、お願いします」
何が起きたのかよくわからないままUターンをして去っていくプリウスを見送る。
・・・・。
・・・・。
た、助かった・・・・、
のか?
いや、助かったんだよ、これは。
え?
日曜で、交通量の少ないこのタイミングで、しかも携行缶を持っている人が現れるなんてことがあり得んのか!?
いや、持っていたとしても、どこの馬の骨かわからん輩に救いの手を差し伸べてくれるなんてことがあるだろうか?
否、ない。
だって、逆の立場で自分だったらと考えると、
おそらくだが「あちゃー、やっちゃってるねー。がんばれ~」って思って素通りしていることだろう。
そんなことを考えながら、ボケ~、っと突っ立っていると、その救世主がお戻りになった。
なんとかクレーン、と刺繍の入った、作業着を着ていらっしゃる、ガタイの良い40歳前後のお兄ちゃんである。
「キャンプやるんだ、これからどっかいくの?」
と、優しく語りかけながら、今買ってきたガソリンを携行缶から入れようとしてくれている。
もちろん維水志もアシストしながら、そーいやハイオクだって言うのを忘れてたが、そんなん四の五の言う場面ではない。
とにかく数キロだけ走ってくれればいーのだ。
お兄ちゃんは、「ああ、やっぱハイオクだったか。エンジンがかかるといいんだが・・」なんて言ってくれてるのだが、恐れ多い。
どんだけ自分は救われているのだろうか?
1リットル程度だったか、申し訳ないのでそれぐらい入ったところで遠慮させてもらった。
「それでいいか?だいじょぶか?一応、エンジンかけてみてくれな」
と、とことん親切な言葉をかけてくれるのだった。
言われたままにエンジンをかけると、何の問題もなく始動した。
た、助かった!
ほ、ホントに・・・。
あ、ありがとうございます!!!
おいくらお支払いすればよろしいでしょうか?と、財布を手にして尋ねるのだが、「いいって!」と踵を返して車に向かって行ってしまうのだった。
どう取り繕っていーかわかんなくて「せ、せめてお名前だけでも」なんて、まるで臭いセリフをたれるしかないのだったが、それとて受け入れることをせず、
「俺もキャンプやるから。気を付けて行ってきてね」
と・・・。
なんて親切なのだろうか・・・・。
て、天使?
そうして彼は最寄りの、おそらくはハイオクがあるであろうガソリンスタンドの位置を教えてくれたのち、再びUターンをしてその場を去っていくのだった。
維水志は、ただその場に立ち尽くしその姿が見えなくなるまで見送るしかないのだった。
そしてその後、どうしたのか?
泣いた。
嬉しくて泣いた。
顔をくしゃくしゃにして。
いい大人が、である。
だって、こんな風に人に救いの手を差し伸べてもらったことなんて人生でそう多くはないのである。
人のやさしさに触れられたことが嬉しかった。
なんか、もうこれだけで、この旅は最高のものになった気がした。
まだ本編が始まってもないのに。
後で単身さんにこの話をすると、震災以降、被災地では皆さん携行缶を持つようになったんだと教えてくれた。
そうか。
だから携行缶を持っていたんだ。
被災地の人たちに自分は今まで何をすることができたんだろうか?
そう思うともう自分を恥じるしかない。
「福島の人は優しい」
と、単身さん。
本当にそうだ。
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